ティーポットに食器、加湿器、クッション。
ハルキは鈍感だから、少しずつ物が無くなっていることに気づかない。
さすがにオーブンレンジや炊飯器が無くなったら気づくだろうから、それは後で一気に持っていく。
ハルキと暮らし始めて1年。彼はとてもいい人だけど、ひとつだけどうしても我慢できないことがある。
ハルキは、物を買わない。もともと最低限の生活用品しか持っていなかった。しかも安っぽい地味な物ばかり。
だから私が買い足したり、古くなったものを買い替えたりした。
彼はお金を半分出すわけでもなく、平然とそれらを使う。
もっと大きい冷蔵庫を買おうと提案すれば、「僕はこれで充分だよ」って言う。
冷蔵庫ぐらいあなたが買ってよっていう意味なのに、まるで伝わらない。
だから私、出て行くことにした。
マンションを買ったことを話せば、ハルキはきっと、当たり前のようについてくる。
確かに私の方が収入は上だけど、甘えてばかりのハルキにウンザリ。
置手紙を置いて、こっそり出て行く。それでおしまい。
彼は物と私が消えた部屋で、呆然とするだろう。そして少しは反省するかしら。
決行は明日。もう有給届も出してある。
ハルキが会社に行ったあと、手配した引っ越し屋がやってくる。
ああ、彼にもう少し収入があって、お金を出し合って最新の家電を買えるような関係ならよかったのに。やっぱり一緒に暮らさないと、分からないことってあるものね。
仕事を終えて家に帰って、電気をつけた。あれ? 何か変。
テレビがない。冷蔵庫もない。テーブルも、本棚も、ハルキの物が何もない。
えっ、どういうこと? 呆然としたのは私の方だ。
オーブンレンジに張り紙があった。彼の置手紙。
『ごめん。もう一緒に暮らせない。出て行きます』
何ですって? 私はすぐにハルキに電話した。
「どういうことなの?」
「ごめん。実は、去年亡くなった祖父から、マンションを相続したんだ。君と一緒に暮らすことも考えたけど、どうしても我慢できないことがあってさ」
「なに?」
「僕は、シンプルな暮らしが好きなんだ。家電や家具もモノトーンで統一してた。だけど君と暮らし始めて、どぎつい色のソファーや、まるで統一性のない食器や家電を買ってきて、耐えられなかった。受け入れようと思ったけどダメだった。だからひとりで引っ越そうと決めたんだ」
「えっ、それならそうと言ってよ」
「でも、君のお金で買ったものを、僕も使わせてもらっていたから言いづらくてさ。でも、もう限界。それで今日、有休をもらって引っ越した。君のことは好きだけど、一緒に暮らすのは、もう無理だ」
ああ、こんなことなら、ちゃんと話し合えばよかった。
だけどもう遅い。彼も私と同じことを考えていたなんて。
結局私たちは、1年暮らしたアパートを引き払って、それぞれのマンションで暮らすことになった。
それから半年。
「ハルキ、今日そっちの部屋に行っていい?」
「いいけど、散らかさないでね。この前君が帰った後、スナック菓子のカスがいっぱい落ちてたよ」
「テーブルが黒だから目立つのよ。黄色にすればいいわ」
「いやだよ」
私たちは、お互いの部屋を行き来している。
なぜって?
だって、私のマンションとハルキのマンション、偶然にも隣同士だった。
ようするに、一緒に暮らさなきゃいいってこと。
ずっとこの関係なら私たち、長続きするんじゃないかしら。
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